1 相続人の妻による老親の介護や特別の寄与 ~相続法改正~

寄与分制度というものがあります。この制度は簡単にいうと,相続人の中に,被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者に対し,他の相続人よりも多く遺産を相続させるという仕組みです。

しかし,旧法下では、寄与分はあくまで「相続人」に限り認められるものであったため,相続人でない限り,いくら被相続人の財産の維持・増加に寄与しても,その貢献は民法上なんら評価されていませんでした。

2 具体例

以下の具体例に沿って考えてみましょう。

  祖父X(被相続人・85歳で死去)。相続人には長女A,長男B,次男Cがいる。次男Cは妻のYとともに祖父Xと同居していたが,祖父Xが亡くなる1年前に死去した。その後も,Xの介護はCの妻Yが一手に引き受けていたというケース。

この場合,相続人はAとBであり,妻Yは相続人ではありません。

したがって,祖父Xの生前,AとBがその介護を一切負担していなくても,両名は相続財産を取得することができますが,妻Yは相続財産の分配を受けることは全くできないということになります。

このような結論が妥当でないことは明らかです。

3 特別の寄与の制度はどうして設定されたのか。

そこで,今回の改正により,無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供を行い,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者も,被相続人の親族であれば,他の相続人に対して,その寄与に応じた金銭の支払い(これを「特別寄与料」といいます。)を請求できるようになりました(民法1050条1項)。これを特別の寄与の制度といいます。

先ほどの例でいえば,Yは被相続人Xの子Cの配偶者ですから,Xとの関係では1親等の姻族であり,「親族」にあたります(民法725条)。

したがって,AやBに対し,特別寄与料を請求できることになります。

 注 なお,よく似た名前の「特別受益」の制度は,相続人間の公平を図るために,各相続人の具体的相続分を計算する際,被相続人から受けた遺贈等を,一旦相続財産に持戻す制度であり,似て非なるものなので注意が必要です。特別受益はどちらかといえば,寄与分と正反対の制度と理解されています。

 

4 遺産分割の中で特別の寄与を主張できる期間はおもったより短い。

特別寄与料の請求により,相続人でない者による介護等の貢献に報いることができるようになり,実質的公平が図られるようになりました。

もっとも,「相続の開始及び相続人を知った時から6か月経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したとき」には,もはや権利行使をすることができなくなります(民法1050条2項)。したがって,迅速な権利行使が必要不可欠となります。このように、遺産分割において特別の寄与を主張できる期間は想定よりずっと短いです。

また、調停の中では、寄与分の主張そのものが、そもそも、遺産分割調停とは別で申立が必要とされています。

5 弁護士無しで特別の寄与を主張するのは正直難しい。

また,特別寄与料の支払いについては,第一次的には当事者間での協議が予定されており,この協議が調わない場合には,家庭裁判所に協議に代わる処分を請求する必要があります。家庭裁判所が処分をする際には,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情が考慮されますから,的確な事実主張が要求されるところです。

従って、例えば嫁の介護などがなされていた場合については、なるべく早めに弁護士にご相談ください。

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