遺言書が無効になるケースとしては,方式が間違っている場合(民法960条),共同遺言(民法975条),被後見人による後見人またはその近親者に対する遺言(民法966条1項)などの他に遺言能力の欠如(民法961条)の問題があります。
1 遺言書の方式が間違っている遺言
自筆証書遺言の方式は、厳重にその要件が定められていて、これに反する遺言は無効となる事があります。自筆証書遺言の方式については、「遺言書の書き方と公正証書遺言」を参考にしてください。
2 遺言書の重要部分の加除変更の箇所が間違っている遺言
遺言の加除変更の方式は、非常に細かく規定されています。具体的には、①その場所を支持し、②これを変更した旨を付記して③特にこれに署名し、かつ、④その変更場所に印を押さなければならないとされています(民法968条2項)。
加除変更の方式違反の箇所によっては、遺言全部が無効となる場合もあります。例えば、不適切な日付の変更によって抹消部分が判読できないため、遺言全部を無効としたものがあります(仙台地判昭50年2月27日)。しかし加除変更が僅少部分にとどまり付随的補足的地位を占めるにすぎず、その部分を除外しても遺言の主要な趣旨が反映されている場合には遺言の効力には影響ないとされています。なお、物件を特定するために加入された文言が方式違反であっても、もとの記載だけで物件の特定が可能な場合には、遺言書自体の無効はきたさないとした判例があります(新潟地裁長岡支部判例昭和61年7月17日)。
3 共同遺言の場合
二人以上の者が同一の証書で遺言することを共同遺言と言います。例えば夫婦が同一の遺言書で遺贈をするようなものです。このような遺言は、自由に撤回できなくなったりするおそれや、遺言の効力の発生時期などについて、複雑な権利関係を生じさせる恐れがあることから、民法上禁止されています(民法975条・同982条)。そのため、このような遺言は無効とされています。
4 認知症
このうち最も問題となることが多いのは,遺言能力の問題です。よくあるのは,遺言書を作成された時点において,遺言者の方の意思能力がないと判断されるような場合です。具体的には,遺言を作成した時点で,認知症などを発症しているケースなどです。
具体的な意思能力の判断はそのケースごとに結論は様々ですが,例えば,遺言書そのものの内容の複雑さ、遺言書を書いた当時のカルテや,長谷川式簡易スケールテストの結果,介護認定などの各種資料から総合しての判断となることが多いと思われます。
なお、認知症になっていれば直ちに無効となるわけではありませんし、裁判で争われた場合にぎりぎりの判断となるものが多々あると思われます。
これから遺言書を作成しようとする場合や、遺言書が出てきたけれども、その当時は被相続人が認知症になっていた場合などは、是非弁護士に、できればカルテのコピーを取得してご相談に来てください。