目次
1 不動産が相続財産に含まれる場合の遺産分割
軍用地や不動産が相続財産に含まれている場合、どのように分割するか悩ましい問題があります。
例えば、次のようなケースです。
ケース1
- 不動産として、1億円相当の実家の土地建物があるが、その他の預貯金は300万円にも満たない。相続人は子ども3名である。
- 相続人の長男が一人で実家に住んでいる。実家には店舗が併設されているが、現在は借り手がなく空き家の状態である。
相続財産である実家に住んでいる長男が単独で土地建物を相続しようとする場合、他の相続人に対して、不動産価格を代償金として支払う必要が出てきます。
しかし、そのお金を住んでいる人が工面できない場合もあります。
当事務所で実際に行った解決策としては次のようなものです。
解決策
- 「遺産分割調停をする中で不動産を売却」して、売却代金から必要代金を差引いたものを分割
ポイントとしては、遺産分割調停を利用したというところです。
つまり、特に実家については他の相続人も生まれ育った場所であり出来たら残したい、という思いがあるため、当事者だけでの話し合いでは同意が得られにくいものです。
しかし、空きテナントが出ている、住んでいる人が少ないという状況にある場合、その不動産を有効に活用できているとは言えません。
このような状況であることを、弁護士が間に入って客観的に資産運用の観点から、中立的な意見も取り入れながら、遺産分割調停で話し合いました。
その結果、いくつかの分割案を出し合い、争うのではなく、相続人全員にとって、本当に利益になる状況を作る事を話し合った結果、売却して、現金で分けるという結論になりました。
また、このようなケースではどうでしょうか。
ケース2
- 生前の父親(被相続人)の土地の上に、兄弟がそれぞれ建物を建てて住んでいる。
- 厳密には広さは長男が沢山もらっているのもある。
- また、相続人のうち一人はアメリカに居て、持っている土地は空き家となっている。
- 遺産である土地は、兄弟で公平に分けたい。
解決策
- 全員の費用で測量をしなおして、土地単価で再度評価し、広い土地の上に建物を建てている兄弟はその分の不動産価格を他の相続人に分けるという事で、兄弟の遺産分割を公平に分けました。
不動産の絡む相続のケースでは、当事者で話し合っても解決は見えず、逆にもめ事になってしまう事もあります。
調停手続きを使った上で、測量や土地の評価に詳しい弁護士に依頼する事が肝要です。
また、生前に不動産を使用していた相続人がいる場合、賃料が発生している場合、生前、親から不動産をもらっている場合など、当事者の話し合いでは解決が見えないこともあります。
さらに賃料や軍用地代をどうやって分けるか、既に相続人の一人が賃料や軍用地代を受領している場合どのように相続を分ければいいか、といった点も難しい問題です。
しかし、これらの問題も一定の処理の仕方が決まっており、裁判所の調停手続き、審判手続きをうまく使えば何年も決まらなかった遺産分割がスムーズに公平に決まることも有ります。
不動産や軍用地の具体的な分け方については弁護士に相談すれば一定の処理の仕方を提案することができ、当事者での解決にも役立ちます。
また、相続が始まり紛争がこじれると、軍用地地主会が地代を払ってくれなくなることも有りますが、弁護士が軍用地地主会と交渉して地代を取り返すこともあります。
2 不動産の相続評価の計算の仕方
軍用地や不動産は時価で評価して遺産全体を算定します。
居住用の建物については固定資産評価とそこまで開きがないと言われていることから、相続人間で争いがなければ固定資産評価を参考に算定することもあります。
遺産分割においては土地の不動産評価が非常に重要になります。
(1)底地
A 底地の評価方法
通常は更地価格から借地権割合を控除した額で評価します。
<更地価格-借地権割合=底地価格>
B 借地権者が底地を買い取る場合
借地権者が底地を買い取ると、底地価格と借地の権利が同じ人に所属するので、更地を取得したのと同じであると評価されます。
<借地権者の借地割合+底地価格=更地価格>
(2)借地
A 借地権の評価方法
借地権価格は、更地価格に借地権割合を乗じて評価するのが通例である。借地権割合は路線価図に記載されている。
B 定期借地権
定期借地権とは50年以上の一定の期間を定めて確定的に土地を返還することを約した借地権の事で、その評価は経年とともに権利割合が逓減する。
(3)使用借権
A 使用借権付建物
堅固建物の場合は、建付地価格の20%、非堅固建物の場合10%を建物価格に加算する。
B 使用借権の負担のある土地
と同様の割合を建付価格から控除し、底地価格を求めている。
C 建物の使用借権
建物の使用借権は、一般的に期間は短く、契約終了による建物明け渡しも比較的容易なので、一般的には建物の使用借減価は行わない。
(4)借家権
家屋の評価額×借家権割合0.3
(5)貸家
家屋の評価額×(1-借家権割合)
(6)軍用地
軍用地の評価の特殊性は、地代の○倍(例えば35~46倍)という形で評価されます。
年間地代×(倍率)=軍用地評価
※軍用地は小さく分筆して売る場合にはこの倍率が高くなり、大きいまま売る場合にはこの倍率が低くなる傾向があります。また返還予定がない土地のほうが人気で倍率は高くなる傾向にあります。
いずれにせよ、上記の計算は複雑です。
正確な評価を知りたい場合には弁護士にご相談ください。
3 不動産の評価の基準時
(1)評価の基準時
生前に被相続人から不動産をもらっている場合や軍用地等毎年値上がりする不動産の相続財産を分ける場合に、不動産の評価をする基準時は非常に重要になります。
特に軍用地の場合、一年ですこしずつ値段が上がっていますので、いつを基準にするのか見定めてしっかり査定する必要があります。
A 相続財産の評価時点→「遺産分割時」(分割をする時点)を基準
B 特別受益、寄与分→「相続開始時」を基準。
特別受益について詳しく知りたい方はこちら
寄与分について詳しく知りたい方はこちら
(2)特別受益による貨幣価値変動
昭和30年に贈与された500万円の土建物を500万円と特別受益としてそのまま評価してもいいのでしょうか。
この点は、相続開始時におけるその価値をそのまま評価し、たとえ同居宅が受遺者の行為によって滅失したり、価格の増減があったとしても考慮されないとしています。
4 不動産の遺産分割方法
不動産を分ける場合には、実際にそこに居住している相続人にその不動産を相続させ、仮にその相続人の相続分を超える場合には、超える部分について代償金を支払ってもらうなどの方法を取る事が多く、実際、裁判所で行われる遺産分割調停や遺産分割審判においても、どうしても不動産を取得しなければ困るという事情がある人に優先して不動産を取得させ、代償金を払ってもらうという運用が行われているようです。
これに対し、軍用地についてはほぼ現金と同じ扱いになっています。
(1)土地を分割する場合
現物分割
遺産を現物で分割します。一筆のうちの一部を分筆する場合、測量による費用などが別途かかることがあります。
代償分割
誰かひとりが不動産をもらう代わりに、その値段を他の相続人に対して支払います。
換価分割
第三者に売った代金を相続人で分けます。
共有分割
相続人の共有のまま分割します。仲の良い相続人がいる場合はこのような分割も可能です。
(2)軍用地の分割
軍用地の分割は実はさほど大変ではありません。軍用地の場合、一筆のうちのどの場所が特に評価が高く、どの部分の評価が低いということは基本的にはなく、金銭のように容易に分割ができるからです。
土地の分割については、その後に不動産を利用せず売却する予定であれば、遺産分割手続きの中でまず売却してから金銭で分割することをお勧めします。
仮にその土地を利用する、または相続人の生前から土地を利用していて継続して利用したい場合には、軍用地の正確な評価が必要となります。
5 不動産から発生する賃料の分け方
(1)相続開始前の賃料等
相続開始前の賃料や軍用地料、利息配当金については、それが預金になっているか現金になっているか、権利として残っているのかによって、異なります。
また、近時、裁判例の変更により取り扱いが非常に複雑となる可能性があります。弁護士にご相談ください。
(2)相続開始後に生じた賃料、株などの利息配当金について
準共有状態にある不動産から生じる賃料などは、当該不動産を共有する相続人が相続分に応じて分割単独債権として取得します。
遺産分割の遡及効によってその効果が覆るものではありません。
遺産分割前の賃料債権の帰属と相続分の確定に関する判例
<最一小判平成17年9月8日>遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
(3)遺産分割によって土地を取得した人は遡及的に賃料を取得できるか
遺産分割審判確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、遺産分割審判確定の日の翌日から各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきとされています(2016年時点)。
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