相続の流れと手続

本ページでは相続の基本的な流れを解説します。

相続はどのように始まり、どのように終わるのでしょうか。
相続で揉めると何年も長引いてしまうと耳にすることもありますがどれくらいかかってしまうことがあるのでしょうか。
また、具体的にどういう手続や費用が必要になるのでしょうか。

相続はよく分からない、という方向けに書いていますので、まず初めに読んで頂ければと思います。

1 相続の始まりと各手続の期限

相続は、ある人が亡くなることによって始まります。

民法第822条
相続は、死亡によって開始する。

この亡くなった人のことを被相続人といい、被相続人の財産を受け取る人のことを相続人といいます。

相続人が亡くなった直後から、死亡診断書の受取や死亡届の提出といった事務手続きが始まります。
具体的には以下のような事務手続が必要になります。

相続の流れと手続き

死亡または死亡を知った日~7日以内

  • 死亡診断書の受取
  • 死亡届を市役所へ提出
  • 火葬許可申請書を市役所へ提出、許可証の受け取り
  • ※死亡届は死亡を知った日から7日以内に提出しなければ5万円以下の過料があります

~14日以内

  • 世帯主変更届を市役所へ提出(世帯員が複数いる場合)
  • 国民年金受給停止を年金事務所等へ提出
  • 厚生年金受給停止を年金事務所等へ提出
  • 国民健康保険資格喪失を市役所へ提出
  • 介護保険の資格喪失を市役所へ提出
  • 親族や知人への訃報の連絡や新聞への告知
  • 葬儀社への連絡と葬儀の手配
  • 初七日法要の手配
  • 葬儀と火葬
  • 押印済みの火葬許可証の取得
  • 納骨やお墓の手配
  • 雇用保険受給資格証の返還
  • 電気、ガス、水道など公共料金の解約や名義変更
  • 電話、インターネット、テレビ、サブスクリプション等の解約や名義変更
  • 死亡保険金の受取など生命保険関係手続
  • クレジットカードの解約
  • 運転免許証の返納
  • パスポート執行手続き
  • 国民年金の死亡一時金請求
  • 高額医療費の還付申請
  • 遺族年金の請求
  • 個人の未支給年金の請求
  • 協会けんぽなどへの埋葬料請求
  • 協会けんぽなどへの葬祭費請求

このように、公的手続、葬儀関係手続は初めの2週間で集中的に行わなければならないものが非常に多いです。
家族が亡くなり、心の整理もつかない状態で多数の事務手続きを終わらせる必要があるため、2週間~1ヶ月はあっという間に過ぎていった、という感覚を持たれる方が多くいらっしゃいます。

そのため、相続自体は、死亡した日から始まっているのですが、1ヶ月程度は相続関係の話ができないまま過ぎてしまうことが多々あります。
後述するように相続関係手続は3ヶ月が一つの目安になっています。
3ヶ月と聞くと長そうですが、早期の対応が必要である、とよく弁護士が言うのは親族死亡後の時間的精神的余裕が少ない為です。

それでは、相続に関連する法的な手続きとその期限を解説していきます。
思っていたよりも期限の短いものもあると思いますので、ご一読いただければ幸いです。
メインとなるものには赤文字にしています。

~3ヶ月以内

  • 遺言書の確認
  • 遺言書の検認
  • 相続人の調査
  • 相続財産の調査
  • 単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを取るのか決定し、家庭裁判所に申述をする

単純承認、限定承認、相続放棄の決定は、もっとも重要な手続きのうちの一つです。
中身を解説しますと、それぞれ次の内容となっています。

単純承認:被相続人のプラス財産・マイナス財産双方を相続する
限定承認:被相続人のプラス財産からマイナス財産を差し引いて残った部分を相続する
相続放棄:被相続人の財産を相続しない

つまり、自分が相続に関わっていくのか、あるいは関わらない方が良いのかを3ヶ月以内に判断しなければいけません。
この判断をするために必要となるのは、相続人が何人いて、相続財産がどの程度あるのか、という点です。この二つがある程度わかれば、自分の取り分や、債務額が判明するためです。
そこで、3ヶ月以内に、相続人の調査と相続財産の調査も行う必要があるのです。

相続財産や相続人の調査方法については、以下のページで解説しています。平日に市役所や法務局に行く必要が生じてしまいますので、弁護士にまとめて依頼することも可能です。

相続財産の調査方法

また、被相続人が作った遺言書を発見したときは、その遺言書を裁判所に出して検認手続を取らなければいけません。遺言書が偽造されていないかどうか確かめておく必要があるためです。

民法1004条1項
遺言書を発見した相続人は、遅滞なく、検認手続を行わなければならない

相続放棄の申述

なお、3ヶ月を過ぎてしまったのに何もしていないときは、もう相続放棄はできなくなってしまいます。
単純承認をしたとみなされてしまうためです。

また、相続放棄をする前に、法定単純承認と言われる行動をとってしまうと、その時点で単純承認したとみなされてしまいます。
被相続人の財産を使ってしまった場合が典型例ですが、次のような行動も法定単純承認となり得ます。

  • 被相続人の未払いの入院費として本人の貯金をおろして返済に充てた
  • 被相続人の持ち家を取り壊した
  • 被相続人が持っていた美術品を形見として友人や親族にあげた
  • 車を廃車処分にしたり、不動産の名義を移したりした

どういった行動が法定単純承認に該当するかは、法律上に具体例が挙げられているわけではありません。そのため、個々のケースごとに該当性が判断されることになるのです。
そのつもりが無くても、うっかり該当してしまうケースもある、ということです。
被相続人の財産を管理・処分する必要があるときは、まずは専門家に相談することが自分の身を守ることにつながります。

なお、相続放棄の期間については、家庭裁判所に申し出ることで期間を延長することもできますし、例外的ですが、後から相続放棄をすることも可能です。
そのため、相続放棄をしたいと考えている方や、相続放棄予定だが家や持ち物の処分をしなければいけない方、相続してしまうと債務の方が多くなるかもしれないと不安を抱えている方は、なるべく早めに弁護士に相談した方が良いでしょう。

~4ヶ月以内

  • 被相続人の所得税の申告(いわゆる準確定申告)
  • 準確定申告のために必要な所得金額の調査

その年1月1日からの被相続人の所得税を計算し、税金を納める必要があります。
期限は4ヶ月以内と定められています。これを準確定申告といいます。
そのためには、被相続人の所得がいくらであったのか調べなければなりません。
相続財産調査と重なることがありますが、生前の関係性が薄かったりすると、この調査も難航してしまうことがあります。
こちらもなるべく早めに進めておくことをおすすめしています。

もっとも、準確定申告を行ってしまうと、法定単純承認に該当してしまいます。相続放棄をする場合にどのような対応を取るべきかは、他の相続人の有無や、受遺者と呼ばれる人の有無で変わりますので、個別の対応が必要です。

~6カ月以内

  • 特別寄与料の請求

特別寄与料とは、法定相続人以外の親族が、被相続人の介護などをしていたときに、請求できるものとなります。
ざっくりと説明すると、義父母の介護をしていた、義実家の家業を手伝った場合に、貢献した分の対価を相続財産からもらえる制度になります。
この時効は、6ヶ月以内ですので、この期間を過ぎるともう請求することはできなくなります。
詳しくは以下のページをご覧ください。

「特別の寄与」について弁護士が解説

~10ヶ月以内

  • 相続税の申告
  • 遺産分割協議を行い遺産分割協議書を作成する
  • 相続税の延納などの申請
  • 預貯金等の解約や名義変更

相続税の申告は10ヶ月以内と決められています。この期間を過ぎてしまうと延滞税や加算税がかかってしまいます。
延滞税の税率は特例もありますが、原則7.3%(2ヶ月以内)又は14.6%(2ヶ月以降)、加算税は~40%です。
相続税に加えてかなりの税金が加算されてしまうことになりますので、申告は期限内に正確に行わなければなりません。

相続税を収める必要があるのは、基礎控除を超えた遺産相続がある場合です。
基礎控除の計算式は、
3000万円+(600万円×法定相続人の人数)です。

そのため、相続税は、必ず納付すべきものではありませんが、国税庁のデータによると、約11人に1人の割合で納付することとなっています。
この相続税納付の必要性を確かめるためには、プラス財産・マイナス財産の合計額と、法定相続人の人数確定をしておく必要があるのです。

そして、申告の際には、遺言書又は遺産分割協議書の写しが必要となります。
遺言書が無い場合は、遺産分割協議を行い、協議書を作成しなければなりません。
分割協議をするということは、各人の遺産の取り分を決めるということです。
なお、ここでの取り分や分配方法は、他の相続人の同意が得られれば、法定相続分に従う必要はありません。思い入れのある実家が欲しい、介護をしていたのだから多めに欲しい、売却しやすい不動産が欲しい、といったそれぞれの希望を出し、話し合うことで誰が何を相続するのかを決めます。
もしここでまとまらない場合は、次のステップである遺産分割の調停や審判に進むことになります。
実際の取り分が決まるという点で、この協議は非常に重要なものですから、以下のページで別途詳しく解説しています。

遺産分割協議のやり方は?遺産分割のコツを弁護士が解説
遺産分割調停は自分でも出来る?遺産分割調停を弁護士に頼むメリット・デメリット

申告の際にこの協議書が出来上がっていないと、法定相続分で分割したと仮定した申告書を出して相続税の申告を行うこととなります(未分割申告)。
この場合、3年以内に本来の申告を行う、という扱いになりますので、その間に遺産分割の話をまとめることとなります。
3年経ってもまとまらない場合も、やむを得ない場合は更に延長できますが、税務署の承認が必要となってしまうため、認められるハードルは高くなります。

申告作業自体も、負担が多いものですので、二度手間を防ぐためにこの期限までに遺産分割協議をまとめておくことが良いでしょう。
相続の目安としてよく10ヶ月といわれるのはこの相続税申告の期限があるためです。

~3年

  • 相続登記の完了

相続によって不動産を取得した場合、その取得を知った日から3年以内に相続登記申請をしなければいけません。
今までは、相続登記をする・しないは任意でしたが、令和6年から、登記が義務化され、ペナルティも設けられるようになりました。
任意だと登記をしない人が多く、全国的に所有者不明土地が増え、社会問題になったためです。
きちんとした理由が無いのに、この登記をしなかった場合、10万円以下の過料が課されることとなったのです。

登記の期限について、遺産分割が決まったときはその時から3年間となります。また、遺産分割がまとまらない場合でも、相続人申告登記、という名前の登記を行わなければなりません。
2年以上話し合いがまとまらない場合は、どういった登記をするべきで、どういった書類を集めるべきか検討する必要がありますので、弁護士に相談されることをおすすめしています。

なお、令和6年4月1日以前に相続が始まった(被相続人が死亡した)場合も、遅くても令和9年3月31日までに登記をしなければいけないので注意が必要です。

相続登記

~10年

  • 特別受益の主張
  • 寄与分の主張

特別受益とは、複数の相続人がいるときに、そのうちの一人が特に贈与を受け、被相続人からもらった利益のことを言います。
遺贈や、生前贈与によってほかの相続人よりも多い財産を贈与されることで、他の相続人と不平等が生じてしまいます。
例えば、被相続人に1000万円しか財産が無いのに、その内900万円を姉だけに贈与した場合、100万円だけを2人で分け合うとすると、弟の取り分はとても少なくなってしまいます。
こういったときは、弟が特別受益の主張をすることで、相続開始時に残されていた100万円と、姉にあげていた900万円を合計した上で、各相続分ごとに取り分を分配することができます。
上の場合だと、1000万円を2人で分けることになるのです。
この主張は今までは時効がなかったのですが、相続が開始してから10年以内にしなければならない事となりました。

特別受益は財産調査等を行わなければ分からないこともありますし、特に沖縄では長男だけに贈与していた、家業を継ぐ息子にだけ贈与していたというケースが非常に多いです。
こういった時に特別受益の制度を知らなければ不当に損をしてしまうことになります。
特別受益については特に詳しい解説をしていますので、以下のページをご覧ください。

生前贈与とは?特別受益に当たると相続分は実際どう変わるのか

寄与分とは、相続人が、被相続人の介護を行った場合などに相続の取り分を多くもらえるという制度です。親の介護、親の家業を手伝ったことときに主張することができます。
具体的な要件などは以下のページで解説しています。

介護した人の相続分は増える?寄与分の申立ての仕方や、算定基準を弁護士が解説

この寄与分も、今までは時効がありませんでしたが、民法改正によって相続が開始してから10年が経過した時点で時効消滅すると決められました。
被相続人が民法改正前(2023年4月1日以前)に亡くなっていた時も適用されるので、注意が必要です。

特別受益と寄与分は、民法の改正によって2023年の4月から期間制限が設けられることになりました。今までの相続とは取扱いが違うので、注意が必要です。

まとめ

以上が、相続が開始してから行うべき法的手続きの流れになります。
これらは、基本的なものですので、家族構成や、遺言書の内容によっては別途ほかの手続が必要となることもあります。

特に重要なのは、3ヶ月以内の相続放棄等の判断と、相続税の申告です。
そして、このためには財産調査や他の相続人との調整と話し合いが必要になってきます。
相続開始後は思っている以上にスピード感をもって、様々な手続きに取り組まなければなりません。
仕事や育児など、自分の日常生活をこなしながら、不慣れな手続きを行うことに疲れてしまう人もいます。

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この記事を書いた弁護士 弁護士鈴木志野 この記事を書いた弁護士
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弁護士 鈴木 志野