
「父の遺言に従って財産を相続したら、兄弟から遺留分を請求された」「弁護士から突然、内容証明郵便が届いた」――このような場合、どう対応すればよいのでしょうか。
遺留分侵害額請求を受けても、相手方の請求額をそのまま支払わなければならないとは限りません。請求できる人か、期限内の請求か、財産の評価や計算に誤りがないかを確かめる必要があります。一方で、正当な請求を放置すれば、訴訟や強制執行に発展するおそれがあります。
この記事では、遺留分を請求された側がまず確認すること、減額の可能性、一括払いが難しいときの対応について、弁護士が解説します。
1 遺留分侵害額請求をされたら、まず確認すべきこと

遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与などによって法律上保障された最低限の取り分(遺留分)を侵害された人が、その不足額に相当する金銭を請求する制度です(民法1046条)。通知が届いたら、まず次の3点を確認しましょう。
① 相手方に遺留分を請求する権利があるか
遺留分が認められるのは、配偶者、子(一定の場合の代襲相続人を含む)、父母などの直系尊属です。兄弟姉妹や甥・姪には遺留分はありません。また、相続放棄をした人や、相続欠格・廃除によって相続権を失った人は請求できません。ただし、欠格者または廃除された人の子が代襲相続人となる場合には、その子に遺留分が認められる可能性があります。
関連記事:相続欠格と相続廃除の違いとは?
② 請求の期限が過ぎていないか
遺留分侵害額請求権は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しなければ時効によって消滅します。また、相続開始から10年を経過した場合も、同様に時効によって消滅します(民法1048条)。
ただし、期間が経過していても、裁判所が自動的に時効を適用するわけではありません。時効の完成を理由に支払いを拒むためには、請求を受けた側が時効を援用する必要があります。
また、期限内に有効な遺留分侵害額請求がされている場合には、その請求によって発生した金銭債権について、別途、消滅時効を検討する必要があります。過去の通知や交渉の経緯も確認してください。
関連記事:遺留分侵害額請求権の時効
③ 自分がいくら負担すべきか
遺言や贈与で財産を受け取った人が複数いる場合、請求額の全額を自分一人が負担するとは限りません。受遺者・受贈者の負担の順序や割合は民法1047条で定められています。ほかに財産を取得した人がいないかも確認しましょう。
なお、2019年6月30日以前に開始した相続には、原則として改正前の遺留分減殺請求制度が適用されます。相続開始日によって制度が異なる点にも注意が必要です。
2 遺留分侵害額請求を受けた場合の対応の流れ
請求を受けた場合の基本的な流れは、次のとおりです。
↓
資料の収集と調査(遺言書・財産・生前贈与など)
↓
相手方との交渉(金額・支払方法の協議)
↓ 合意できない場合
家庭裁判所での調停、または地方裁判所・簡易裁判所での訴訟
内容証明郵便などが届いても、その場ですぐに支払いを約束する必要はありません。請求の根拠資料を確かめ、不明な点があれば相手方に説明や資料の提示を求めましょう。ただし、回答期限を無視するのではなく、調査に時間が必要なことを伝えるなどの対応が大切です。
交渉で合意したときは、金額、支払期限、分割払いの条件、清算条項などを合意書に明記します。交渉でまとまらない場合には、調停や訴訟で解決を図ります。
関連記事:遺留分侵害額請求の調停とは? / 遺留分侵害額請求の訴訟とは?
3 請求された金額が正しいか確認する方法
遺留分侵害額は、遺産総額に単純に遺留分割合を掛けるだけでは決まりません。相続開始時の財産に、法律上算入すべき生前贈与を加え、相続債務を控除して基礎財産を算出します。そのうえで、請求者が既に取得した財産や特別受益、承継する債務などを反映します。
例えば、父の遺産が4,000万円、相続人が長男と長女の2人で、長男にすべてを相続させる遺言がある場合、長女の遺留分は原則として4分の1、金額にして1,000万円です。ただし、借金や生前贈与などがあれば結果は変わります。
確認したいのは、財産の計上漏れ・過大評価、生前贈与、相続債務、請求者が既に取得した財産です。特に不動産の評価をめぐって意見が分かれることがあります。
詳しい計算方法は、遺留分侵害額はいくら請求できる?計算方法を相続弁護士が解説をご覧ください。
4 遺留分侵害額請求を減額できる可能性があるケース
相手方の請求額が過大であれば、根拠を示して減額を求めることができます。主な争点は次のとおりです。
① 不動産の評価額が高すぎる
土地・建物には、固定資産税評価額、相続税評価額、実勢価格など異なる評価の指標があります。遺留分では原則として相続開始時の客観的価額を検討するため、相手方の提示額が当然に正しいとは限りません。沖縄では軍用地や借地関係のある土地など、個別事情に応じた評価が必要になることもあります。
② 請求者が生前贈与を受けていた
請求者が住宅購入資金や事業資金など、特別受益に当たる生前贈与を受けていた場合、請求額の減額につながる可能性があります。
相続人への贈与を遺留分算定の基礎財産に加えるのは原則として相続開始前10年以内ですが、請求者本人の特別受益を侵害額から控除する場面では、10年より前の贈与も問題になります。贈与の内容や時期を詳しく確認することが重要です。
③ 債務や取得済み財産が正しく反映されていない
被相続人の借金などが計算から漏れていないか、請求者が相続で取得した預貯金や不動産が控除されているかを確認します。ただし、請求者が承継する債務は侵害額に加算される場合もあるため、借金があれば必ず減額できるというわけではありません。
なお、「長年親の介護をしていた」という事情があっても、寄与分を理由に遺留分侵害額を直接減額することは原則としてできません。法律上の根拠と証拠に基づいて検討する必要があります。
5 遺留分を一括で支払えない場合
現行の遺留分侵害額請求は金銭の支払いを求める制度です。遺産のほとんどが不動産で現金がない場合でも、支払義務が当然に免除されるわけではありません。
① 分割払いや支払期限を交渉する
相手方が合意すれば、分割払いや支払期限の延長が可能です。毎月の支払額や期限などを書面に残しておきましょう。
② 不動産の売却・代物弁済などを検討する

相続した不動産を売却して支払資金を用意するほか、相手方の同意があれば、不動産の持分などを金銭の支払いに代えて渡す方法も考えられます。ただし、税金や登記費用などにも注意が必要です。
③ 裁判所に支払期限の猶予を求める
民法1047条5項は、受遺者・受贈者の請求により、裁判所が金銭債務の全部または一部について相当の期限を許与できると定めています。ただし、必ず認められる制度ではなく、分割払いが自動的に認められるものでもありません。
また、請求者に対する貸付金などがあれば、相殺によって支払額を調整できる場合もあります。
6 遺留分侵害額請求を放置するリスク
請求内容に納得できない場合でも、通知を無視することはおすすめできません。
訴訟への発展:話し合いが進まず、調停や訴訟を起こされることがあります。訴状が届いたのに答弁書を出さず期日も欠席すると、相手方の主張に沿った判決が出るおそれがあります。
遅延損害金:金銭債務が履行遅滞となれば、元金に加えて遅延損害金が生じる可能性があります。請求の意思表示や履行請求の時期などを確認する必要があります。
強制執行:判決や調停調書などに基づき、預貯金や不動産等を差し押さえられる場合があります。ただし、通知が届いただけで直ちに差押えができるわけではありません。
支払いに争いがある場合こそ、早めに根拠を整理して対応しましょう。
7 まとめ|遺留分侵害額請求をされたら弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求を受けたときは、相手方の権利の有無、請求期限、金額の妥当性を確認することが大切です。特に、不動産評価や生前贈与が争点となる場合には、請求額が変わる可能性があります。
弁護士法人ニライ総合法律事務所では、遺留分を請求する側・請求された側の双方からご相談をお受けしています。那覇市・沖縄市・うるま市の3拠点で対応していますので、突然の請求や支払方法にお困りの方は、お早めにご相談ください。
