はじめに

「借金があると言われて相続放棄をしたのに、後から実は多額の財産があった……」
このような事情が判明したとき、相続放棄をやめることはできるのでしょうか?

この記事では、相続放棄の撤回・取り消しの違いや、認められる条件、実際の手続き方法、さらに騙して放棄させた人の責任や無効の主張ができるケースまで、法的観点からわかりやすく解説します。

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目次

1 相続放棄の撤回は原則としてできない

相続放棄を一度してしまうと、原則として撤回することはできません。
相続の法的関係は複雑で、自由に撤回できてしまうと、他の相続人や利害関係人の権利関係に混乱を招くためです。

民法第919条1項
「相続の承認及び放棄は、第915条第一項の期間内でも、撤回することができない。」

ここでの「915条第1項の期間」とは、いわゆる熟慮期間(3か月)を指します。

補足:申述前なら「取下げ」が可能なことも

相続放棄の申述は、原則として一度行えば撤回することはできません。
しかし、家庭裁判所がまだ相続放棄の申述を「受理」していない段階であれば、「取下げ」という形で手続きをやめることが可能です。

これは、家事事件手続法第82条に基づき、「審判が出るまでは申立てを取り下げることができる」とされているためです。

家事事件手続法第82条(家事審判の申立ての取下げ)
家事審判の申立ては、特別の定めがある場合を除き、審判があるまで、その全部又は一部を取り下げることができる。

相続放棄の申述が受理されるまでには、通常1か月程度かかるとされています。
その期間内であれば、家庭裁判所に「取下書」を提出することで申述を取り下げることができます。

ただし、申述が受理されてしまった後は「取下げ」はできなくなりますので、判断に迷う場合は早めに対応することが重要です。

2 相続放棄を取り消せる場合(例外)

ただし、例外として、以下のような事情がある場合には取り消すことが可能です。

  • 詐欺や脅迫によって相続放棄をさせられた場合

例えば、騙されて「相続財産がない」という説明を受けて相続放棄をしたような場合、脅されて仕方なく相続放棄をしたような場合、民放総則の規定に従いこれを取り消すことができます。
民法919条第2項は次のように規定しています。

民法第919条2項
「前項の規定は、第1編(総則)及び親族編の規定により、相続の承認または放棄の取消しをすることを妨げない。」

錯誤による相続放棄無効

3 相続放棄の取り消しはいつまでできる?

取り消しには期間制限があります。

  • 詐欺を知った日から6か月以内
  • 脅迫の影響から解放された日から6か月以内
  • いずれの場合も、相続放棄から10年を経過すると取り消しできなくなる

民法第919条3項
「前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効により消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。」

4 相続放棄の取り消し手続と立証のポイント

相続放棄の取り消しを行うには、家庭裁判所に「取り消しの申述」を行う必要があります。
裁判所は、申述を受けると取り消しの原因(詐欺や強迫など)が認められるかどうかを審査します。

取り消しが簡単に認められると、他の相続人や利害関係人の法的安定性が損なわれるため、慎重な審査が行われます。

民法第919条4項
「第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」

取り消しが認められるかどうかは、申述人側が積極的に資料を収集し、裁判所に提出して立証する責任があります。
とくに「詐欺」や「強迫」があったと主張する場合には、いわゆる二段の故意(欺罔の意図+誤信させる意図)など、法律上の要件に沿った事情を具体的に立証する必要があります。

このように、取り消しの可否には高度な法的判断と証拠整理が求められるため、相続放棄の取消しを検討している方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

5 だまして相続放棄させた人の法的責任

相続放棄は本人の自由意思に基づいて行うべきものですが、虚偽の説明によって相続放棄をさせた場合、その行為は不法行為として損害賠償の対象となる可能性があります。

実際に、以下のような判例があります。

【裁判例】虚偽説明で相続放棄をさせた親族に不法行為が認定されたケース

被相続人の親族Yが、他の相続人であるXらに対して「被相続人が死亡したことを告げないまま、老人ホームへの入所手続きや生活保護の申請には、全員が相続放棄しなければならない」などと虚偽の説明をして相続放棄の申述書を作成させた事案がありました。
さらに、Yは「被相続人には借金の方が多い」とも信じ込ませ、Xらに相続放棄の申述をさせました。その後、Yは唯一の相続人のようにふるまって不動産を売却し、その代金や預金を取得していました。
裁判所は、Yの一連の行為が他の相続人をだまして不当に相続放棄をさせた不法行為に該当すると認め、Xらが本来得られるはずだった法定相続分に相当する損害について、Yに対して損害賠償責任があると判断しました(大阪高裁平成27年7月30日判決)。

このように、だまして相続放棄をさせる行為は重大な法的責任を問われる可能性があるため、虚偽の説明で相続放棄を迫られた場合には、すぐに弁護士へ相談することが大切です。

6 相続放棄の無効主張

相続放棄については、錯誤(重大な思い違い)があった場合には、取り消しではなく「無効」と主張できることがあります。
特に、相続財産に関する重要な点について誤った情報を信じて放棄をしてしまった場合、その放棄の意思表示が要素の錯誤にあたるとされ、初めから無効とみなされる可能性があります。

【判例紹介】誤った説明を信じて相続放棄した場合の「無効」が認められたケース

相続人Xらは、「被相続人には多額の借金があり、株券も見つからないため株主権の行使もできない」と説明を受け、借金を避けるために相続放棄を行いました。
ところが後になって、実際には借金は存在せず、株主権の行使に支障もなかったことが判明します。
裁判所は、相続放棄の動機となった情報が重要な誤認(錯誤)にあたるとして、「相続放棄の申述は無効である」と判断しました(福岡高裁 平成10年8月26日判決)。

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