はじめに
遺言書は、故人の最終的な意思を形にする重要な文書です。
しかし、作成者が認知症だった場合、その遺言書が有効なのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、遺言者に「遺言能力(いわゆる意思能力)」があるかどうかの判断基準について、裁判実務で重視されるポイントをわかりやすくご紹介します。
目次
1 遺言能力とは
「遺言能力」とは、自分の財産をどう分けるかについて、その意味や結果を理解し判断できる能力をいいます。
法律上、15歳以上であれば遺言を作成することができますが(民法961条)、たとえ年齢要件を満たしていても、認知症や精神疾患などにより内容を理解できない状態であれば、遺言は無効とされる可能性があります。
遺言能力の有無は、医療的な側面だけでなく、遺言内容の合理性や当時の言動、人間関係なども総合的に考慮され、最終的には裁判所が判断します。
2 遺言能力の判断ポイント(考慮要素)
裁判実務で重視される主な考慮要素は、以下の7点です。
- 遺言者の年齢
年齢が高くなるほど、認知機能の低下が疑われやすく、慎重な判断が必要とされます。 - 病状と健康状態の経過
認知症や精神疾患の有無、進行状況などが重要です。医師のカルテや認知機能検査(例:長谷川式簡易スケール)の結果が証拠となります。 - 発病時と遺言作成時の時間的関係
発症と遺言作成の時期が近ければ、その影響が疑われやすくなります。 - 遺言時および前後の言動
介護施設の記録や家族の証言などから、遺言時に整った意思表示が可能だったかが判断されます。 - 日頃の遺言に関する意向
生前に「この家は長男に継がせたい」などの発言があったかも重要です。沖縄では地域的な慣習や長男相続の意識も影響する場合があります。 - 遺言者と受贈者の関係性
相続人との関係が良好であり、介護などに深く関与していた場合は、その者に多く残すことが合理的と判断されやすくなります。 - 遺言書の内容の合理性・複雑さ
内容が単純で明快であれば理解できていた可能性が高く、能力が肯定されやすいです。一方、複雑で多段階的な内容であれば、理解能力の有無がより厳しく問われます。
【外部リンク】長谷川式認知症スケール(HDS-R)/一般社団法人 日本老年医学会
3 具体的な事例と分析
事例
父が死亡し、「長男にすべての財産を相続させる」という遺言書が見つかりました。母と姉は既に他界しており、相続人は長男と私(二女)の二人だけです。
ただし、父は生前に認知症と診断されていました。この遺言は有効でしょうか?
分析
- 健康状態・認知症の程度(考慮要素2.)
まずは、遺言作成時の認知症の程度がポイントです。医師の診断書やHDS-R(長谷川式スケール)などの検査結果が重要な証拠になります。 - 言動・発言内容(考慮要素4.)
認知症が進行していれば、支離滅裂な言動や異常行動が出ていたかもしれません。介護記録や要介護認定資料などで確認します。 - 生前の意向や人間関係(考慮要素5.・6.)
父が「全て長男に」と言っていたか、長男が主に介護をしていたかどうかも判断材料になります。逆に、相談者である二女との関係性や発言内容も重要です。 - 遺言の内容(考慮要素7.)
内容が「すべてを長男に」という単純なものの場合、理解していたと認められる可能性も高まります。
このように、複数の事情を総合的に考慮して、遺言能力の有無が判断されますが、実際の判断は医学的証拠の有無や個々の事実関係によって大きく左右されます。
そのため、遺言の有効性に疑問がある場合は、必ず相続に詳しい専門家にご相談いただくことをおすすめします。
4 遺言が有効と判断された場合の対応
仮に遺言能力が認められ、遺言が有効とされた場合でも、不公平な内容だと感じる場合は、遺留分侵害額請求という手続きにより、金銭での補償を求めることができます(民法1046条)。
詳しくは、以下の関連記事をご参照ください。
【関連記事】遺留分とは?|沖縄の相続に強い弁護士がわかりやすく解説
まとめ
認知症と診断されたからといって、ただちに遺言が無効になるわけではありません。
医療記録や遺言時の状況、家族との関係性などを丁寧に検討し、証拠をもとに主張していくことが重要です。
疑問がある場合には、遺言の有効性や遺留分に詳しい弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
特に、沖縄の相続慣習や地域事情に通じた弁護士に相談することで、より的確な対応が期待できます。
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